『各種の治療』

1)内視鏡治療

内視鏡治療とは、内視鏡を使って、大腸の内側からがんを切除する方法です。大腸の粘膜には知覚神経がありませんので、通常、痛みを感じることはありません。内視鏡でがんを切除する代表的な方法として、キノコ型のポリープに対して行うポリペクトミーと平たい腫瘍に対して行う内視鏡的粘膜切除術があります。どちらもスネアという金属性の輪を腫瘍にかけて高周波電流を流して切り取ります。治療の適応は、大きさが2cm未満で、良性と判断されたポリープや粘膜への浸潤程度が軽いがんが目安となります。切除した組織の病理検査によって、外科的切除が必要となる場合があります。

2)手術(外科治療)

大腸がんの治療は、手術による切除が基本で、早期でも手術が必要な場合があります。がんのある腸管とリンパ節を切除します。リンパ節を切除(リンパ節郭清)する範囲は、がんの部位と手術前に予測した進行度を考慮して行われます。がんが周囲の臓器に及んでいる場合には、それらの臓器もいっしょに切除します。腸管を切除した後、腸管をつなぎ合わせます(吻合:ふんごう)。直腸がんが肛門付近にあって吻合ができない場合は、人工肛門が必要となります。

リンパ節郭清の分類

がんは近くのリンパ節から順に遠くへ転移していくと考えられるため、状態に応じてリンパ節郭範囲は3つに分類されます。

D1郭清:がんのある腸管の近くにあるリンパ節(腸管傍リンパ節)の切除
D2郭清:腸管傍リンパ節に加え、がんのある腸管に流入する血管に沿ったリンパ節(中間リンパ節)の切除
D3郭清:腸管傍リンパ節、中間リンパ節に加え、その血管の根元にあるリンパ節(主リンパ節)の切除

3)放射線療法

放射線治療は、高エネルギーのX線を体の外から照射して、がんを小さくする効果があります。また、切除が難しい骨盤内のがんに よる痛みや出血などの症状緩和、骨転移による痛みや脳転移による神経症状などを改善するためにも一般的に行われます。

4)抗がん剤治療(化学療法、分子標的治療)

大腸がんの抗がん剤治療は、主に「手術後のがん再発の予防」と、「根治目的の手術が困難な進行がんまたは再発がんに対して延命およびQOLの向上」を目的に行います。

術後の再発予防(補助化学療法)

手術によりがんを根治的に切除できた場合でも、リンパ節転移があれば再発率が高くなることが知られています。このような場合、手術後に化学療法を行うことで、再発を予防する、あるいは再発までの期間を延長できることがわかっています。このような治療を、術後の補助化学療法といいます。

化学療法

根治的な手術が不可能な場合は、化学療法の適応になります。大腸がんの場合、化学療法のみで完治することはまれですが、臓器機能が保たれている人では、化学療法を行わない場合に比べ、化学療法を行った方が生存期間が延長することがわかっています。

分子標的治療

「分子標的薬」を用いた治療です。これは、わが国では2007年以降に承認された新しい薬で、体内のがんの進展や増殖に関わる特定の分子だけを狙い撃ちにしてその働きを抑えるため、このように呼ばれます。多くの場合、化学療法との併用で用いられています。

5) 免疫療法(活性化自己リンパ球療法)

術後の再発予防や進行がんのQOL改善を目的として行います。
抗がん剤や放射線療法が効きにくいがんにも有効とされているため、これらの治療と併用し、相乗的な効果を狙って行われます。

6)緩和医療

病気に伴う痛みやつらさ(身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、霊的苦痛)など、患者様やそのご家族が直面する様々な問題に対し援助を行う医療です。
終末期の医療として捉えられがちですが、早期から行うことで苦痛を予防し、あるいは軽減させる効果があります。治療効果やQOLを向上させていく手段です。

『進行度(ステージ)別標準治療』

大腸がんは、進行度(ステージ)によって治療法が異なりますが、治療の中心は手術(外科治療)となります。

1)0期 内視鏡治療の適応

がんが粘膜内にとどまる粘膜内がんの場合、内視鏡治療の適応になります。

2)Ⅰ期 内視鏡治療もしくは手術

がんが粘膜下層にとどまる(軽度浸潤)か、その下の固有筋層に達している(深部浸潤)かで治療法が異なります。
内視鏡治療は、原則として軽度浸潤に対して行われます。
深部浸潤の場合は、がんを切除する際に大腸壁に孔をあける危険性が高くなるため、手術となります。

3)Ⅱ期~Ⅲ期 基本は手術+抗がん剤/放射線

標準的な治療は手術になります。
がんの病巣を、安全領域を含めて切除し、周囲のリンパ節郭清を行います。

補助化学療法

がんが手術によって切除できたとしても、リンパ節転移があれば再発率が高くなります。そうした場合、再発を予防する、再発までの期間を延ばすために行われるのが補助化学療法です。

補助放射線療法

比較的初期の手術可能な大腸がんに対して骨盤内の再発を抑制したり、手術前に大腸がんを少しでも小さくする目的として、またなるべく肛門を残すための手段として、放射線療法が行われます。

4)Ⅳ期 抗がん剤/放射線+緩和ケア

手術による症状緩和、、抗がん剤による症状緩和、延命治療などが中心になります。
また、がんによる痛みや出血、神経症状がみられる場合は、症状緩和を目的とする放射線療法が行われます。

『大腸がん治療後の経過観察と検査』

一般的には、手術後3年間は3~6ヵ月に1度、3年目以降は約半年に1度の間隔で通院します。検査は、大腸内視鏡、胸部X線、腹部超音波(エコー)、CT、腫瘍マーカーなどを行います。5年経過した後も、他の臓器(胃、 肺、乳腺、子宮、前立腺など)や大腸の別の部位に新たにがんが発生する可能性があるため、検診などの定期的な検査が必要になります。