免疫療法とは

現在、一般的に行われているがん治療は、三大治療と言われる、外科治療(手術)、化学療法(抗がん剤など)、放射線治療の3つです。この三大治療に加えて、近年“第四のがん治療”として注目されているのが免疫療法です。
免疫療法は、人間にもともと備わっている免疫というシステムを利用した、体の内側からがんにアプローチする治療法です。
「免疫」という言葉は、みなさんの会話の中でも、普段何気なく使われることがしばしばあると思います。概念としては、病原菌やウイルス、花粉、ホコリ等の「外敵」が体に入ろうとするのを防いだり、入ってきたものを排除しようとするなど、体がそれらに侵されないようにする機能のことと認識されていると思います。
まさしく、免疫とは「外敵でないもの」と「外敵」を区別し、体の中に侵入、発生した「外敵」を排除しようとする、誰もが生まれながらに備えている体のシステムのことをいい、主に血液中の白血球がその役割を担っています。

体内に日常的に発生するがんのもとになる異常細胞も、「外敵」であるといえます。健常状態においては、この日々発生しているがん細胞も免疫のシステムによって排除されます。この免疫のシステムの強さとがん細胞の守りの強さのバランスによっては、がんが排除されないことがあり、こうした場合、がん細胞が増殖を続け、その結果として、がんとなるといわれます。
この免疫システムの強さの調整を人的に行い、がん治療に応用できないかという観点で研究、開発されてきたのが「免疫療法」です。

がんの三大治療が、手術・抗がん剤・放射線といった外部の力を借りてがんを治療するのに対し、免疫療法は、元々体に備わっている免疫のシステムを利用してがんと闘います。 免疫療法は、他の治療と比べると効果を確認するまでが長く、徐々に効果があらわれることから、効果が弱いと判断されることもありますが、効果が現れた場合には、長期間持続するという特徴があります。これが免疫療法の非常に優れた点の一つです。免疫療法は、治療を受ける方の持つ免疫力を使った治療なので、体力があり、免疫のシステムが衰えていない状態(病気の早い段階)で使うと、より高い効果をあげることが期待できるとされます。
多くの免疫療法は、他のがん治療と比較して副作用が少ない(弱い)こともメリットとして挙げられます。また、手術・抗がん剤・放射線といった外部の力を利用した三大治療とは、作用機序が全く異なるため、三大治療と組み合わせて行うことが可能です。さらに三大療法の弱点を補う場合が多く、併用を行う治療法としては、相性が良いため、集学的治療として組み合わせて使用することも可能です。
免疫療法は、免疫のシステムやそれに関わる細胞を利用して行う治療法の総称であり、着眼点の違いによってさらにいくつかの治療法に分けることができます。
たとえば、免疫システムを担当する細胞を強化して行う治療を「免疫細胞療法」、体内の免疫細胞を刺激して行う治療法を「ワクチン療法」などと分類されます。
療法の解釈を広げ、健康食品やマッサージなどにより、免疫のバランス調整を行うものも含まれる場合があります。

 

免疫療法は大きく二つの方法に分かれます

免疫療法とは、元々持っている生体の免疫機能を高めることで様々な病気を治療、克服することを目的としたものです。免疫療法は大きく二つの方法に分かれます。

一つは、免疫反応を起こす物質を直接接種または摂取することによって、身体の中に存在する免疫系を刺激し活性化するもので、「能動免疫療法」と呼ばれます。これは、ワクチン療法やサイトカイン療法、または広い意味で健康食品の類も当てはまります。

もう一つは、免疫反応を担うリンパ球などを身体の外で活性化して再び身体に戻すもので、「受動免疫療法」と呼ばれます。これは、リンパ球を体内(生家)から一度体外(育ての家)へ出して(養子)活性化して戻すことから、「養子免疫療法」とも呼ばれています。

 

免疫細胞療法とは

免疫細胞療法は1980年代に米国で始まった、免疫システムを担当する免疫細胞を使用した治療法です。 わたしたちの体は、免疫システムによって病原菌やウイルスなどの異物から守られています。この免疫システムを担当する免疫細胞らは、常に体内を監視し、異物を感知した場合には、それを破壊、排除するために働きます。
がんは、正常細胞がなんらかの原因で変異したものが修復されずに異常細胞として無秩序に増殖することで現れます。

正常細胞の異常細胞化は、それほど珍しい現象でなく、一般的に健康な方でも1日に数千個もの異常細胞が生じていると言われます。ただし、それらの異常細胞の発生によって、必ずがんの状態になるとは限りません。そうならないのは、免疫システムが異常細胞を異物として感知するため、破壊、排除するように働き、がんの状態になるのを防いでいるからです。しかし、異常細胞が免疫システムをくぐりぬけ、増殖を繰り返すと、がん状態となり、さらなる増殖や進行(他組織への浸潤)を食い止めることが難しくなります。また、がん細胞の中には免疫システムを調節し、免疫細胞の増殖や攻撃を抑える働きを行うこともあります。

免疫細胞療法は、がん細胞の増殖よりも免疫の能力が上回るように、がん細胞に対する攻撃の中心となるリンパ球などの免疫細胞を、培養・活性化して機能を高め、患者さんの体の中に戻し、がんを攻撃しようという治療法です。
手術や抗がん剤治療のように短時間で体内のがんを小さくする様な力はありませんが、もともと患者さん自身の体内にある免疫細胞を治療に使うので、副作用がほとんどなく、また、有効な場合には長期的な効果が期待できるという特徴があります。

免疫細胞療法は、固形がんが治療対象(一部の血液系がんは治療対象外)であり、多くのがんが治療の適応となり。また、基本的には病期(ステージ)も問いません。
患者一人ひとりがん種やステージは異なりますので、当然治療目的も異なります。手術後の再発予防を目的とした治療や手術不能例においては、抗がん剤との併用による抗腫瘍効果の増大を目的とした治療など、個人個人の目的に応じた治療を行うことが可能です。
近年のがん治療では、他の療法等を組み合わせて治療を行う、集学的治療が大切とされます。がんの治療には、手術、抗がん剤(化学療法)、放射線の3大療法や緩和医療等のケア治療、活性化自己リンパ球療法に代表される免疫療法、その他にも温熱療法など多くの治療法があります。これらの治療にはそれぞれ長所と短所があり、2つ以上の治療を組み合わせて行う事で、相乗効果が生まれたり、お互いの短所を補う事ができます。
がん治療は、大きく2つの治療に分類できます。局所療法と全身療法です。局所療法である、手術や放射線療法は、肉眼や画像で識別できるがんを物理的に取り除きます。手術や放射線治療のデメリットとしては、肉眼や画像では確認できない細胞レベルの腫瘍や転移したばかりのがん細胞などは取り除くことができません。
全身療法は、全身に散ったがん細胞に対して働くことができます。全身療法の特徴は、目に見えないがんに対しても働けるといった点が局所療法と異なります。
抗がん剤治療(化学療法)は、全身療法であり、体内にある増殖の速い細胞に対して毒性を持ちます。がん細胞は増殖が速いので抗がん剤によりダメージを受けます。
放射線は、局所療法ですが、抗がん剤同様に増殖の速い細胞に対して効果を発揮します。対して免疫細胞療法は、増殖の遅いがん細胞、特に抗がん剤や放射線が苦手とするがん幹細胞に対して効果的に働きます。また、免疫細胞の元となる骨髄の細胞も増殖が速い細胞の一つです。抗がん剤治療(化学療法)や放射線療法による副作用によって免疫系が疲弊してしまうリスクがあります。

抗がん剤や放射線療法は、がん細胞に対して攻撃を行いますが、最終的にそのがん細胞を処理するのは免疫細胞です。副作用によって免疫系が疲弊すると最終処理を行うことができなくなり各治療の効果が減少して見えることがあります。免疫療法を併用すると、疲弊した免疫機能を回復することができるため各療法の効果向上を狙うことができます。

抗がん剤治療(化学療法)や放射線療法には副作用が伴うことが多く、長期的に治療を行うことができないケースがあります。その要因の一つが、体内の免疫細胞がダメージを受け、治療によって弱らせたがん細胞を排除できなくなることがあげられます。
対して、免疫細胞療法は、一般的に副作用が非常に軽微なため長く治療を行うことが可能です。抗がん剤治療と併用した場合、抗がん剤や放射線により疲弊した免疫システムを回復させることができ、抗がん剤や放射線による治療の継続期間の延長が期待できます。
免疫細胞療法は、他の治療の異なる作用機序を持ち独自でがんと闘う能力以外にも、他の治療で弱った免疫システムを回復させる能力も有することから、新たながんの発生を予防したり、免疫能の低下によっておこる各治療の治療停止の回避や、合併症発症リスクの軽減、症状の悪化防止、軽減を行うことが期待できます。

 

活性化自己リンパ球療法の開発 科学的根拠を有する唯一の免疫細胞療法

活性化自己リンパ球療法は、体内のリンパ球を体外で活性化させ、かつ増やして、それを治療に使う方法で、免疫細胞療法のひとつです。
免疫細胞療法に大きな進展が見られるようになったのは、1980年代に入ってからです。アメリカ国立がん研究所(NCI)のローゼンバーグ博士らのグループが、患者さんの血液からリンパ球を取り出し、インターロイキン2という、現在でも腎臓がんの治療などに使われている薬を加えて培養したものを、点滴で同じ患者さんの体内に戻すという治療法を開発し、論文を発表しました。
これはLAK療法と呼ばれ、当時は、がん治療の進展に大きな期待を寄せられたものの、実際にはそれほどの効果はありませんでした。この方法では、リンパ球は増えず、体内に広がったがん細胞に対して、決定的な攻撃性を持つまでに至らなかったのです。そのうえ、大量のインターロイキン2による副作用が強いという問題もありました。結果としてLAK療法はわずか数年で衰退したのです。
その後ローゼンバーグは、すでにがん組織の中に入り込んだリンパ球は特異的であることに着目し、患者さんの体内からがんを取り出し、そこからリンパ球を分離して、インターロイキン2を加えて培養するやり方(TIL療法)を開発しました。

TIL療法では、がんを無菌の状態で取り出さなくてはならないという制約があり、研究を難しいものにしていました。また、がんから取り出せるリンパ球はわずかな量で、それを治療に必要な数まで増やさねばなりません。ローゼンバーグがおこなっていた培養方法では、すべての患者のリンパ球を増やせず、がんの治療としては効果が期待できるほどではなかったのです。
それを解決するものとして、がん細胞と末梢血リンパ球を合わせたものを培養し、CTLというがんを特異的に攻撃するT細胞を増やすCTL療法という方法も考え出されました。 しかし、一見効率よくがん細胞をたたくリンパ球を増やせるかのように思えたこの療法にも、落とし穴があったのです。 CTL療法では、がん細胞を使ってリンパ球を増やすため、増やしたリンパ球の中にがん細胞が混入している可能性を排除することができなかったのです。もし、増やしたリンパ球を患者さんの体内に戻した際に、がん細胞が混入しており、この混入したがん細胞によって、がんが増悪したり、他の個所で増殖してしまったら、実際の治療に応用する品質とは言えません。
TIL療法とCTL療法の教訓から、2つの課題が浮上しました。それは①がん腫瘍を使うことなく、②効率よく大量にリンパ球を増やす、ということです。この2つの課題がクリアできれば、新しいがんの免疫細胞療法が確立できるかもしれないと考え、従来のLAK療法やTIL療法の経験をもとに、リンパ球の新たな培養法を探しました。その結果、「活性化自己リンパ球療法」の開発に至りました。体中で発生したがん細胞を攻撃するのは白血球の役割であり、中でもリンパ球、特にTリンパ球が担っています。活性化自己リンパ球療法は、このTリンパ球を体の外で優先的に増殖、活性化し、患者さんの体に戻す治療法です。
この培養方法(関根法)は、現在、活性化自己リンパ球療法を実施している施設のほとんどで基本とされています。

末梢血中の方が、非常に多くの種類のT細胞がいるため、多くの種類の抗原(外敵)に対して対処することができます。
末梢血中のT細胞は、それぞれ固有の敵を認識することができるため、様々な外敵に対する能力を秘めています。T細胞は、個々に認識できる抗原(外敵)が異なります。末梢血に存在する数多くのT細胞を増殖、活性化することで、多くの外敵を認識する能力を活性化、し、このT細胞群は多特異的な免疫能を持つようになります。

活性化自己リンパ球療法は、他の免疫細胞療法(樹状細胞療法、NK療法、細胞障害性T細胞療法)と比較されることが有ります。

活性化自己リンパ球療法で用いるリンパ球は、末梢血中のT細胞を均一に増殖させるため外敵としてがんを認識するもの、がん以外の外敵を認識するもの全てを活性化・増幅します。このため転移している(原発と特徴が変化している)細胞にも効果がある可能性が有ります。
これらの観点から活性化自己リンパ球療法は、「非特異的」ではなく「多特異的」と考えています。
多特異的に特徴的な治療法としては、活性化自己リンパ球療法におけるウイルス感染症治療があります。免疫力低下時、免疫不全状態に現れる日和見感染症等において、劇的な効果を発揮します。これは多特異的な免疫応答を示しているためと考えられます。

リンパ球の特異性としてリンパ球と異物が1対1の関係で結合することがあります。この特異性は活性化刺激を受けたことのないT細胞の状態で決まっており、これらの細胞は抗原提示細胞と反応することで刺激が入り、リンパ球が増殖し、特異性を示すようになります。免疫細胞療法の説明の中には、抗原提示細胞とT細胞の情報授受の表現を行う際に、接触によってT細胞に特異性が出現したと表現されますが、決して新しい特異的なT細胞が出現しているわけでは有りません。

活性化自己リンパ球療法は、他の療法と比較したときに「がんに対する認識力において劣る」といった偏った見解によって比較されることがあります。
樹状細胞療法、細胞障害性T細胞療法は、がん細胞にある特徴を認識してがん細胞を攻撃する仕組みから、「特異的がん免疫」とよばれ、これに対して 活性化自己リンパ球療法は「非特異的がん免疫」と呼ぶ方がいます。活性化自己リンパ球療法は、血液中の全てのT細胞を増殖して用いる為に、「特異的」に比べ特異性が劣ると解釈された結果、「非特異的」と表現されることがあり、「がんに対する認識力において劣る」と極端な解釈をされることがあります。
これは、体内にまったくがんに対するT細胞が無いことを前提としているときの仮定です。(がん細胞が増えたということは、体内でがん細胞に対する免疫担当細胞がないといった極論的な解釈によるものと考えます)
実際のがん患者さんは、がんに特異的なT細胞は体内にあるものの、
 ・免疫力が落ちている。 ・免疫抑制状態にある ・細胞数が少ない
ために、免疫担当細胞とがん細胞とのせめぎあいの結果、がんが消えない状態にあるといえ、決し「がんに対するT細胞がない」や「がんに対する認識力において劣る」わけではなく。 がんを認識できるT細胞が働きにくい環境があると考えられます。

活性化自己リンパ球療法は、末梢血中のT細胞を均一に増殖させるため特定のがん細胞=原発のがん細胞を認識するもの(特異的な細胞)、特定のがん細胞を認識しないもの(非特異的な細胞=がん以外の何らかの特定の外敵を認識するもの)全てを活性化・増幅します。このため転移している(原発と特徴が変化している)細胞にも効果がある可能性が有ります。
様々な特異性をもったT細胞を用いる治療法のため、「非特異的」ではなく「多特異的」がん治療と考えています。また、単一の効果しか発揮しない特異的に対して、様々な特徴(投与された細胞は全てががん細胞に働くのではなく、免疫の調整を担当する細胞も活性化されている)を有するため、2次的な効果も期待できます。

活性化自己リンパ球大量培養法(関根法)での培養方法では、末梢血中のTリンパ球のすべてが増え、特定のリンパ球だけが増えているのではないことが分かりました。さらに、このT細胞の多くは、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞と呼ばれる活性段階にあります。通常体内でがん細胞を倒す細胞は、エフェクターT細胞と呼ばれます。
関根法によって培養されたT細胞は、体に戻す段階ではセントラルメモリーT、エフェクターメモリーT細胞ですが、体内に入りがん細胞と出会うとエフェクターT細胞へと変化して働きます。
体内のT細胞の多くは休止期にあります。前記のようにT細胞の活性化段階は数段階あり、抗原刺激の強さや回数によって最終活性段階へと移行していきます。 活性の段階としてナイーブT細胞、メモリーT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクトメモリーT細胞、エフェクターT細胞です。がん細胞に対する殺傷作用は活性段階に応じて増しますが、その反面、寿命が短くなります。活性化したT細胞をがん免疫に用いる場合、体内でがん細胞とT細胞が出会った際に、最大限の効果を発揮する活性化状態に調整することが重要です。

活性化リンパ球療法の改変法として、CTL療法等ありますが、これらの培養法では、エフェクターT細胞主体のリンパ球が治療に用いられます。エフェクター細胞は、最終活性段階のため寿命が短く、がん細胞と出会うまでに寿命を迎えてしまうことがわかってきました。
関根法で培養したTリンパ球は、エフェクターT細胞と比較し、寿命が長く、最終活性段階の前段階の活性状態となります。体内を巡回し、がん細胞と出会ったときに、最終活性段階に変化します。

 

通院による治療の実施

活性化自己リンパ球療法は入院することなく通院による治療となります。
お仕事を行いながらも治療を行うことができます。また、副作用が非常に軽微なので生活のパターンに取り込みつつ行うことができます。

入院治療の方が何かがあった時に直ぐに対応してもらえるので安心と感じる方も多いと思いますが、実際に入院してみると色々なストレスを感じるものです。 他人と生活するというのは思っている以上に肉体的、精神的な負担になってきますので、自宅療養にすることで、そういった負担が軽減されます。
病院にいるとどうしても寝ている時間が長くなり、食事と睡眠の繰り返しで運動能力などが低下してきます。自宅療養の場合、何だかんだで生活に動きが出てきますので、社会復帰までの時間が短くなるかもしれません。
家にいることで在宅の仕事ができたり、通勤が負担にならなければ職場復帰も可能です。病院で治療を受ける時には休む必要がありますが、ある程度収入減を抑えることができます。

 

免疫細胞療法の種類と原理・特徴

リンパ球の活性としてよく知られるのがキラー活性です。このキラー活性は、試験管やシャーレなどでがん細胞とリンパ球を共に培養するとみることができる現象です。しかしながら、試験管内でがん細胞を殺す活性(キラー活性)とそれを体内に投与したときの効果とは、必ずしも一致しないことが知られています。CTL療法に代表される抗原を認識させた(活性化した)T細胞のうち、キラー活性を持つT細胞は、最終活性段階であるエフェクター細胞にまで分化しています。この活性段階にある細胞は寿命が短く、実際に人体に投与した場合は、がん組織へ到達できるか疑問が有ります。試験管内では、活性状態を維持したままがん細胞と接触する環境があるため、キラー活性を示すことが出来ますが、体内に投与した場合には、活性状態の維持やがん組織への到達が困難なために抗腫瘍効果が少ないと考えられます。

抗腫瘍効果の主体である活性状態の細胞とは、エフェクターメモリー細胞、セントラルメモリー細胞であると言われています。 エフェクターメモリー細胞、セントラルメモリー細胞は、がん組織において抗原に遭遇するとエフェクター細胞へと変化し、抗腫瘍効果を発揮します。
このような効果は、体内で起こる樹状細胞によるT細胞の活性化の働きとよく似ています。

活性化を受けたことの無いT細胞(ナイーブT細胞)は、そのままでは働くことができません。樹状細胞により教育(選択)を受けた後に一人前のT細胞として働くことができるようになります。その状態をメモリーT細胞と呼びます。とくに長い間免疫を維持できるのはセントラルメモリーT細胞と呼ばれる一群のメモリーT細胞の働きによります。このセントラルメモリーT細胞は、がん細胞に対して強い抗腫瘍活性を示します。体内において、樹状細胞は腫瘍抗原を細胞表面の受容体に提示し、その抗原と反応するナイーブT細胞を選択し、メモリーT細胞へと促します。

関根法で活性化したT細胞は、エフェクターメモリー細胞、セントラルエフェクター細胞が大幅に増加しています。単に活性化したということではなく抗腫瘍効果の高い可能性のある細胞状態に活性化していることによって、活性化リンパ球療法は効果を発揮すると考えます。

体外で培養し活性化・増幅させたリンパ球を用いる免疫細胞療法では、単に活性化した担当細胞を投与するのではなく、活性化したリンパ球が体内でどの様に機能するかを考慮する必要が有ります。活性化自己リンパ球療法は、多特異的なリンパ球の集団をがん抗原とであったときに活発に働くよう(エフェクターメモリー細胞、セントラルエフェクター細胞)に活性化・増幅しています。

また、免疫細胞療法では、投与する免疫細胞の活性化だけでなく、がん組織へ進入できるかどうかも極めて大切です。現在行われている樹状細胞(DC細胞)では成分採血によって集められた樹状細胞を刺激し、血管内、或いは皮下、皮内へ投与します。この樹状細胞はナイーブT細胞を教育し抗腫瘍活性を発揮すると考えられますが、多くは皮下投与による治療であり、ほとんどがん組織へ侵入しないと言われています。

がんの免疫療法詳細

受動免疫療法

受動免疫療法の代表は、活性化リンパ球療法です。活性化リンパ球療法には、腫瘍組織浸潤リンパ球療法(TIL)、細胞障害性リンパ球療法(CTL)、活性化自己リンパ球療法、活性化NK療法などがあります。

TILは、がん組織に浸潤したリンパ球を手術の際に採取し、活性化培養したリンパ球を治療に用います。この方法は、浸潤したリンパ球はがん細胞の情報を学習しているはずなので、がん細胞に対してより認識する力が強い(特異性の高い)リンパ球が得られる可能性がある、という考え方で始まりました。ただし、リンパ球は手術の際にしか取れないこと、効果が期待ほどでは無いこと、などからほとんど実施されていません。

がん細胞の情報を強制的に外から与えれば、より特異性の高いリンパ球が誘導できるかもしれない、という考え方から生まれた受動免疫療法が細胞障害性リンパ球療法(CTL)です。これは、手術でとってきたがん細胞とリンパ球を混合して繰り返し刺激しながら培養します。この方法で培養した活性化リンパ球は、刺激に使ったがん細胞が攻撃目標になるので、特異性の高い効果が期待されています。ただし、がん細胞が手術で取れない場合は実施できません。現在はさらに、がん細胞の変わりにがん抗原を用いたりもしています。一部のがんでは臨床効果が報告されています。

腫瘍組織浸潤リンパ球療法(TIL)や細胞障害性リンパ球療法(CTL)は、手術でがん細胞を取り出すことが必要なのに対して、活性化自己リンパ球療法は、手術でがん細胞を取り出す必要がなく患者さんの身体的負担を軽減するために開発された受動免疫療法です。活性化自己リンパ球療法は、通常血液検査で採血するような少量の末梢血を材料にしてリンパ球を活性化培養し、がんの治療を実施します。また、培養方法の改良(固相化抗CD3抗体及びIL-2で活性化で刺激)で約2週間の培養でリンパ球数が1000倍程度に増殖させることが可能となり、臨床応用が可能となりました。

末梢血のリンパ球のみではがん細胞に対する特異性が無い(非特異的)のではないか、という質問を良く受けます。またこの方法は簡易的に「非特異的リンパ球療法」と呼ばれます。 先にも書きましたが、血液中のリンパ球は免疫監視機構の担い手であり、常にがん細胞の発生を監視して、見つけた場合には排除します。リンパ球は大変学習能力が高く、一度攻撃したがん細胞の記憶を残しており(メモリー細胞)、更に未知の抗原に対して反応する力も備えています。その為、抗原刺激を行わなくとも、末梢血のリンパ球を材料とする活性化リンパ球療法はがん細胞に対して反応することが可能です。その為、本療法は、「非特異的リンパ球療法」ではなく「多特異性リンパ球療法」と呼ぶべきであると考えています。

体内に存在するリンパ球は、様々ながんの情報を持った細胞集団であると言えます。それらをまとめて活性化培養するわけですから、CTLやTILの様に対応するがん細胞だけではなく、様々ながん細胞に対して特異性を持った活性化リンパ球が誘導できます。さらに、体内に投与された活性化リンパ球ががん細胞を攻撃すると、さらにがん細胞の情報を得て学習し特異性が高まりますので、治療を継続するごとに特異性の高いリンパ球が徐々に体内に増えてきます。

また一方では、がん細胞を攻撃するリンパ球だけではなく、体内の免疫機能の活性化を手助けするようなリンパ球(ヘルパーT)も増殖しますので、投与によって生体の免疫機能自体を高めることも出来ます。これにより、QOLの改善や抗がん剤や放射線療法の副作用も軽減する効果も期待できます。現在、活性化自己リンパ球療法を実施しているほとんどの医療機関は、基本的にこの方法を応用しています

これまで説明した免疫療法がTリンパ球を活性化するのに対して、活性化NK療法はリンパ球の中のNK細胞を活性化して治療する免疫療法です。NK細胞はIL-2で活性化しますが、増殖には限界があります。また、Tリンパ球は、血管壁を通過してがんに到達することが比較的容易ですが、NK細胞は血管壁を通過してのがん細胞への到達は困難です。最近、少量の末梢血から活性化培養する方法が開発されいくつかの医療機関で臨床応用されていますが、培養方法やその効果に関する学術的な報告は、ほとんどなく、その臨床効果は確認されていません。

近年、がん細胞の情報を取り込ませた樹状細胞をリンパ球と混合して培養することにより、活性化の過程でがん細胞の情報をリンパ球に伝えることによって特異性を高め、治療に応用する免疫療法も考案されていますが、その臨床効果は確認されていません。

能動免疫療法(ワクチン療法)

能動免疫療法には、ワクチン療法やサイトカイン療法があります。ここではワクチン療法について説明します。
免疫反応は、異物(抗原)を認識することによって、それを排除しようとする反応です。がん細胞も特有の抗原を持っていると考えられており、いくつかのがんでは既に証明されています。それらのがん抗原を取り出し直接接種したり、抗原情報を免疫担当細胞に伝える働きを持った細胞(樹状細胞など)にがん抗原を取り込ませて接種することで、生体内の免疫系を活性化する能動免疫療法が「ワクチン療法」です。この能動免疫療法の一つである「ワクチン療法」によるがん治療法は、接種した抗原や樹状細胞ががん細胞を直接攻撃する訳ではないので、接種された後どれだけ効果的に免疫系を活性化できるかが課題となります。既にいくつかの施設で臨床応用が始まっています。

能動免疫療法(サイトカイン療法)

能動免疫療法の一つであるサイトカイン療法は、元来生体内で免疫反応を活性化する働きを持つ物質を、体外から大量に投与することによって治療に使う方法です。様々な物質がありますが、現在医薬品として治療に使われているものは、インターフェロン(IFN)やインターロイキン-2(IL-2)です。これらの物質は、生体内では極微量で免疫反応を制御していますので、体外から大量投与することによって重篤な副作用も起こってきます。効果と安全性のバランスを考えながらがん治療に使うことが重要です。将来、より有効なサイトカインが出現する可能性もあります。

能動免疫療法(その他健康食品など)

能動免疫療法の一つである健康食品の類は、キノコ系、植物系、動物系のものなど様々で、製造方法も費用もそれぞれに大きく違います。これらは医薬品ではありませんので、客観的な臨床効果や安全性が確認されていない場合がほとんどです。使用する場合は専門の先生の意見をよく聞くことと、効果や安全性に本人が納得して使うことが肝心です。

免疫療法によるがん治療実績

全国の提携先医療機関