免疫細胞療法はLAK療法に始まりました

1980年代初め、アメリカ国立がん研究所(NCI)のローゼンバーグ博士らのグループは、がん患者から大量のリンパ球を取り出し、大量のIL-2で数日間刺激した後、大量のIL-2と共に点滴で戻す免疫細胞療法を開発しました。これがLAK(Lymphokine-Activated Killer cell)療法です。

この療法は、期待したほどの効果もなく、IL-2の副作用も強く、患者からの大量のリンパ球の採取は身体的負担も大きいことから、その後LAK療法は数年で衰退しました。

この過程で、同様の方法でより高いがん治療効果を期待して、腫瘍組織浸潤活性化リンパ球療法(TIL)や細胞障害性活性化リンパ球療法(CTL)が考案されました。腫瘍組織浸潤活性化リンパ球療法(TIL)は、腫瘍組織に浸潤しているリンパ球を手術後取り出し活性化する方法であり、細胞障害性活性化リンパ球療法(CTL)は培養中に手術で取り出したがん細胞を混合させて刺激を繰り返し活性化する方法です。しかし、CTL療法もLAK療法と同様、期待したほどの効果がなく発展しませんでした。

活性化自己リンパ球療法の開発

LAK療法の衰退後、1980年代後半、わが 国で新しい培養方法が開発されました。当時、国立がんセンター研究所室長であった関根暉彬博士(株式会社GCリンフォテック取締役会長)は、LAK療法の経験を踏み台にして、約50ccの末梢血からリンパ球を分離し、抗CD3抗体とIL-2で刺激することによって、リンパ球を1000倍以上に増やす方法を開発しました。少量の血液からリンパ球を培養できるため、採血による身体的負担が解消されました。

また、活性化リンパ投与時に抗CD3抗体やIL-2を除く事により、重篤な副作用も無くなりました。この培養方法は、ほとんどの患者様のリンパ球を活性化増殖させることが可能で、目的のリンパ球が増殖したかどうかは、特殊な装置で調べます。また、細菌等の混入が極めて少なく、安全性確認のための試験を導入しており、極めてクオリティの高いリンパ球を提供することが出来ます。

肝臓がんの手術後再発予防

関根博士らは、この方法で培養した活性化リンパ球の臨床的な効果を確かめるため、肝臓がんの手術後の再発予防、という目的で臨床試験を実施しました。肝臓がんはたとえ根治的に切除できても短期間に高い確率で再発をきたし、手術後3年で70%再発することが知られています。活性化自己リンパ球投与により再発率が改善されれば、患者にとって大きな希望になると考えました。

5年間の試験の結果、活性化リンパ球治療によって無再発生存率は約20%向上し、統計学的に明らかな有効性が確かめられました。この結果は英国の権威ある医学雑誌「Lancet」に掲載され、世界の医学会において活性化自己リンパ球療法が科学的根拠のある治療法として認められました。

世界で効果が証明された免疫療法へ

グリオブラストーマ(悪性脳腫瘍)手術後の再発予防

グリオブラストーマ(悪性脳腫瘍)は手術により全摘出がなされても、術後2年で約70%が死亡するという極めて予後の悪い脳腫瘍です。新しい薬としてテモダールが開発されて予後の改善がありましたが、平均生存期間がおよそ2ヶ月延びたにすぎません。

肝臓がん同様、手術により全摘出された後のグリオブラストーマ5例へ再発予防を目的とした活性化自己リンパ球投与を行いました。月1回の投与を5年間続けて、再発した場合は投与間隔を2週間としました。

2例は10年以上無再発生存、1例は5年無再発でした。1例は24ヵ月後に再発、45ヶ月生存しました。8ヶ月後に再発が認められた例は投与間隔を2週間とした所、腫瘍の増大は止まり、良いQOLを維持していたが、45ヶ月後に投与を中止した所、3ヶ月後に死亡しました。以上の結果より、活性化自己リンパ球投与によりグリオブラストーマの無再発生存率が飛躍的に改善されました。集学的治療を行っても治療困難なグリオブラストーマに対し、活性化自己リンパ球療法が効果的な治療法の一つになると考えています。

なぜ活性化自己リンパ球投与ががんの再発を予防するのか

がん組織は、①増殖が速い細胞 と ②増殖が遅い細胞 が混ざりあった状態にあります。増殖が速いがん細胞には抗がん剤、放射線療法がよく効果を発揮しますが、増殖が遅いがん細胞には効果が低いことが知られています。すなわち、抗がん剤や放射線治療後に増殖の遅いがん細胞がわずかに残っていて、そのがん細胞が除々に大きくなり、再発の原因となります。それでは、活性化自己リンパ球療法は増殖の遅いがん細胞を殺傷できるのでしょうか。関根博士の試験管内での実験により、活性化自己リンパ球は増殖の遅いがん細胞をより殺傷することが分かりました。それ故、再発予防に効果があると考えています。

再発予防に向けて

手術により、完全にがんを取りきれたと思っても、目に見えない小さいがんが残存もしくは、他の部位にすでに転移しているなどして、数年後に一定の確率で再発がおこります。その割合は手術した時のがんの進行度に依存します。
手術後、この再発を未然に防ぐことが、がん治療を行う上で非常に重要になってきます。

がん治療後の再発予防は本来再発しない人が含まれている集団も対象であり、抗がん剤での再発予防では、効果は一部の人のみで他の人は副作用のみ受けることとなるため、いかに副作用を少なくするかが極めて重要になりますが、活性化自己リンパ球療法は副作用が少なく、この点で再発予防に適しています。

活性化自己リンパ球療法は、前述のとおり関根博士が、がん治療を目的として開発しました。肝臓がん、脳腫瘍における臨床試験により、がんの再発予防に最も効果があることがわかりました。活性化自己リンパ球療法はまとめると以下の点で、がんの再発予防に最も適した療法だと考えます。

  • ① がんの再発予防効果が科学的に証明されていること
  • ② ほとんどのがん種に適用可能であること
  • ③ 副作用が極めて少なく、患者様に優しい治療であり、QOLの改善が多くの症例で見られたこと